第40回目「ゆとりの法則 Slack」(トム・デマルコ著)(その1)

「熊とワルツを」に引き続き、デマルコの著書です。この本も常識として思っていたことを、いろいろと再考させてくれます。
今回も各個所で気付くところがあり、3回シリーズとします。
1回目:第Ⅰ部 ゆとり、第Ⅲ部 変化と成長
2回目:第Ⅱ部 本当に速く仕事をするには
3回目:第Ⅳ部 リスクとリスク管理、考察(まとめ、気付き)

<抜粋>
第Ⅱ部 本当に速く仕事をするには

  • ストレスが問題である場合:ゆとりが解決になる
  • 組織のストレス=ゆとり不足の兆候
  • 急がせる組織:つねにプレッシャーにかかっている
  • 人間は時間的なプレッシャーをいくらかけても、速くは考えられない(ティム・リスター)
  • 考える速さは決まっている
  • 優秀な管理者:プレッシャーをめったに使わず、また長期間にわたって使うこともない
  • スケジュールを強気、非常に強気にしているプロジェクト→必ず失敗に終わる
  • 「強気のスケジュール」=達成できる見込みがまったくない馬鹿げたスケジュールを意味する一種の暗号
  • まちがったスケジュール:守れない期日を設定するスケジュール→労働者ではなく、計画者の責任→責任は、スケジュールを達成できなかった人ではなく、スケジュールを立てた人が負うべきである
  • 計画どおりに作業を達成できなければ、計画の意味はない
  • 時間外労働をしたり、ほかの人に勧めたりすること:企業の本質的な要素の一つである基本設計の決定をくつがえすことになる(基本労働時間の設定ミス→だが、この決定を制度化する勇気はまずない)
  • だらだらと時間外労働をさせること→生産性を低下させる方法
  • だらだらと時間外労働をさせる影響:①品質の低下、②人材の燃え尽き、③離職率の上昇、④通常の勤務時間における非効率的な時間の使い方
  • 時間外労働の多い企業:通常の勤務時間が浪費される
  • 会議:時間外労働企業が貴重な人材の時時間を無駄にする方法の一つ
  • 「働きすぎている管理者は、やるべきではないことをやっている」
  • 時間外労働を無視したまやかしの生産性の定義:パフォーマンスが低下する可能性を高めるだけ
  • まちがった管理の第一法則:うまくいかないことがあったら、もっとやれ
  • 才能のある管理者:うまくいかないことがあれば、それをやめてほかのことをしようとする
  • 才能のない管理者:「いまやるうとしていることはうまくいくはずだ。うまくいっていないのは一生懸命やっていないせいだろう」と考える(管理の公式や原則に頼ろうとする)→いままでやってきたことをさらにやらせる
  • まちがった管理の第二法則:自分自身のユーティリティー・プレーヤーになれ
  • 担当がいない仕事も大事だが、管理ほど大事ではない=管理は大事である、管理は必要
  • ストレス過剰の組織:管理をすることは危険と感じてしまう→部下が行う製品作りに入り込む→思慮のある管理者にはありえない図式
  • 管理がむずかしいのは、習得がむずかしい技能を必要とするからだ→技能を修得すれば低レベルの仕事以上に組織に影響を与えらえられる
  • 怒っている管理者:行き詰まって、どうやって指揮をとればいいのかさっぱりわからなくなっているあわれな無能者
  • よい契約:ゆとりが必要
  • 妥当に予想されるリスクをカバーできるだけのゆとりを契約条件に組み込んであることを確認する必要がある
  • プロセスへの執着は問題
  • テーラーリズム:工場での作業を厳密に標準化し、プロセスの人的要素を、製品の部品と同じように交換可能にすることを求めている
  • 新たな自動化の導入:人間がすべき仕事の全体量は減るが、残った仕事はむずかしくなる
  • プロセスの標準化:きわめて感情的な問題に発展することもある
  • 標準プロセス→「仕事のあらゆる部分をどうしなければならないか正確に指示します。・・・ただし、むずかしい部分はのぞく」と言っている
  • 標準プロセス:失敗から身を守る鎧のようなもの⇔鎧にはかならず、動きがとりづらくなるという副作用がある
  • 品質には時間がかかる←ゆとりがなければ、品質向上プログラムなで悪い冗談
  • 開発プロジェクトの品質向上プログラム:なによりもまず、スケジュールの品質を保証するのが当然
  • 品質:時間がかかり、数を減らすものなので、ある意味では非効率⇔効率優先の組織では、品質を敵とみなす
  • 組織全体の指揮をとることはむずかしい⇔指揮をとっているように見せかけることは簡単
  • 「生物は適応するほど、新しい変化への適応性が低くなる」(R・A・フィッシャー:遺伝学者)
  • 現在成功している企業:停滞している要素はほとんどない
  • 目標管理が失敗し続けている理由:目標管理固有の問題→目標管理は時代遅れのなった考え方
  • 目標管理:人為的に外部から「目標」というモチベーションを与え、労働者に内在するモチベーションを追い出してしまう(例:ノルマを達成するという外部からのモチベーションに動かされている営業担当は、顧客を満足させるという内在するモチベーションを無視するようになる)
  • 目標管理に対するアドバイス:目標管理はやめる



気付き
誰もが心の片すみでは気付いてはいるけど、誰もが言えないことが述べられているという印象を受けた。
無理と思われるスケジュールで進めて行こうとすることは、よくあること。ゆとり(余裕、PMBOKで言えばコンテンジェンシーか)がないと、問題が発生するとすぐに崩壊してしまうことは見えている。その対策として、時間外労働を当てにしているところがある(管理するほうも、実施するほうも)。暗黙のうちに、時間外労働で対応しているため、生産性の低下が起こる。あるチームが時間外労働をしていると、周りもそれに倣ってしまい、場合によっては、帰りずらい状況を作り、短時間でできることも時間をかけて実施したりするケースもあるのではないか、すなわち、生産性の低下だけを発生させてしまっている状態を作っているのかも知れない。
ある企業では、組合の力が強かったのかどうか分かりませんが、時間外労働に厳しいところがありました。そういうところでは、時間内に仕事を収める緊張感と工夫があった様に思います。
品質についても同様で、品質を確保する時間が保証されないと当然どこかで手抜きになってしまう。よく考えられるケースとしては、単体試験、組合せ試験の品質が十分でない(もともと品質確保できる体制、スケジュールでない)のに、スケジュール的なことで次フェーズに入ってしまう。結果的に前フェーズでの確保できていない品質が持ち越され、調査対応に時間がかかり非効率で品質が上がらないものができてしまう。
品質確保は、必ずスケジュール(期間)とともに考える必要がある。
試験の場合は、どこまで試験をするかの方針を考えることも重要。
標準化については、執着は問題とある。確かに、標準化プロセスにこだわり過ぎて、結果的に非効率で品質低下をまねけば、本末転倒である。ただし、ここで注意しなかればならないのは、標準化プロセスの考え方を知った上でそれにこだわらない対応をするのと、標準化プロセスの考え方を知らずに実施するのとは意味が違うということもあると考える。
PMBOKもプロジェクト管理の考え方を知る方法の一つである。PMBOKは、多くのプロジェクト関係者の知恵の集まりであり、PMBOKに記載されていることをそのまま実行すればプロジェクトが成功すると言うものではない。しかし、知恵の集まりを知ることで、自分たちのプロジェクトでの応用が利く。標準化プロセスに執着しないということは、標準化プロセスが無駄ということではなく、基本を知った上でどこまで適用するかは各自の判断、プロジェクトの状況で効率的に決めたらよいということを言っていると考えるべきであると思う。(GEのジャック・ウェルチは、決められたツールを使用しない管理者は使わなかったということを見たことがあります。標準化、ツールも使い方一つといったところが本当のところでしょう)
目標管理については、目標がないと進むべき方向が分からないと思われるが、理念に沿ったもので、かつ、個人のモチベーションを低下させないものである必要があるということだと考えられる。
管理者については、特に中間管理者は、管理だけでなく実作業も期待されている企業も多いのではないだろうか。管理者自身も管理が良く分かっていない管理者は特に、実作業をしている方が楽であると感じるのではないだろうか。ソフト業界だけではないと思うが、管理者になっていく人は、管理能力云々より、まずは、プロジェクトで成績が残せた人が管理者になっていくケースが多いのではないだろうか。そのため、社内研修で管理者教育はあるが、あとは経営目標を作って、フォローして、残りは実作業というケースが多い(技能教育はあまりなされていない)のでないか。そのため、管理者向けの地獄の特訓というのを行う会社があるのであろう。勿論、会社を背負っていくのは中間管理者であるとの認識で、管理者教育を充実されている会社もあるであろう。この辺りは企業文化に負うところが多いと思う。